1 皆殺し〜ファンタジーの絶滅

なぎさとほのかにとって、光と闇との戦いの終わりはファンタジーの絶滅である。本論におけるファンタジーの定義は、先のチャートで置いたように変身・異能力・運命・異界というようなものに代表させてみた。野口悠紀雄氏によるとファンタジーとはこの現実の物理法則や社会構成とは異なる原理で編まれている世界を舞台とした物語ということらしいので、まあそういうことで話を進める。
なぎさとほのかは、無印プリキュアの物語が始まるまではファンタジーとは無縁の「この世界」に過ごしていた。あえていうならスーパーリアルRPG~もしRPGが本当に現実的だったら?〓心理学ステーション〓←こういう世界である。
違うような気もするがまあいい。
なぎさとほのかは、メポミポと出会うことで今まで彼女たちが生きてきた「この世界」とは異なる世界が存在していることを知る。そしてこの世界の存在ではないファンタジーの世界への扉が開かれ、プリキュアとしての役割を果たすことになった。
「ごく普通のこの私が、実は特別な選ばれた存在であり、異界の異能力を身に付けて特権的な変身をして大活躍、最後には意中の男の子と思いを遂げて、さらに最後にはみんな仲良く大団円でハッピーハッピー」というのは、現代人の希望を満たす規定のフォーマットである。自分が凡百の群衆のひとりではないというヒーロー/ヒロイン願望、異能力を身につけ特別な力を使いこなせるという能力発揮願望、ただ生きて死ぬだけではなく何か強烈な使命を持たされているという生きる意味を持ちたい願望、特別な誰かに自分を認めてもらうという認知願望、異性と相思相愛になるという恋愛願望。まあぶっちゃけシンデレラとかスーパーマンだよな。それに現代的な意匠をまぶしてできあがるのが、なかよし連載のような冒険活劇である。
男の子の冒険活劇フォーマットとの違いは、主人公が内的確信を持つかどうか、主体的に特別な存在になっていくかどうかというところにあるのだろう。まあそれは思いつきの余談。
プリキュアに話を戻すと、ファンタジー世界での主人公としてなぎさとほのかは世界を救うという使命としては最大級の役割を与えられたのだった。そして二度の決戦でジャアクキング様を打ち破り、彼女たちは世界を救ったわけだ。
しかし彼女たちを待っていたのは、救世主としての賞賛ではなかった。世界を救うという大目標を達成した彼女たちを待っていたのは、メポミポと出会う前の彼女たちに戻されることだった。記憶だけを残したまま、プリキュアとしての全てが消滅した。彼女たちはただの中学生に戻った。
メポミポとポルンは永遠の眠りについた。つまり死んだ。ポルンが死んだことでひかりの園との通路も閉ざされる。番人と長老とクイーンとも永遠に離れることになった。ドツクゾーンは彼女たちが滅ぼした。ジャアクキング様をはじめ、分身たちと魔人たちも死んだ。彼女たちの特権性を裏打ちできる異界の全ては、彼女たちから永遠に去っていった。
プリキュアであることが、彼女たちが特別な存在である理由だった。しかし異世界への扉が全て閉ざされてしまうことで、彼女たちは凡百の群集のひとりへと戻されてしまった。