1 お話としてのヒーロー

彼女たちふたりだけが、唯一闇の世界からやってくる敵に立ち向かうことができる。それが正解かどうか正確なところはわからないが、今までのところそうなっている。だから彼女たちは他者に頼ることはできない。プリキュアになるためにはメップルとミップルの力がなければならないし、物理的な力としては光のクイーンの力を借りてジャアクキング様を倒したし、ポルンの力を借りてプリキュアレインボーストームを使う。
彼女たちは光の園サイドの唯一の実力行使者としてふたりだけで闇からの敵たちと対峙しており、辛いからといって誰かへ戦闘をゆだねることができない。ふたりは光の側で最強の戦士なのだ。
そういう情況を彼女たちが誰に頼ることもなく仲間たちだけで乗り越えてしまえば、それはそれで完全なるヒーローだろう。しかしそんな彼女たちは普通の中学生という設定であり、また小さな視聴者たちのあこがれとなる。閉じた世界の仲間以外の誰にも頼らずものごとを解決するという態度は、子供たちにとってはあまりよくない。
なぎさとほのかはプリキュアという特別な力を持っている異能人であり、敵はとにかく倒してしまえばよい完全なる部外者だ。現実の日常とは違う。小さな視聴者たちがこれから生きてゆかねばならないこの世界では、特別な力を持っているのが自分であるという幸運はほとんどやってこないし、とにかく倒せばよいというような分かりやすい敵などはどこにもいない。
小さな視聴者たちはこれから先、親や大人たちや先輩たちからたくさんの物事を学ばなければならないし、過去の大人たちが残した文化という遺産から学ばなければならない。そして敵がいたりいなかったり、味方がいたりいなかったり、敵が味方になったりその逆だったりする複雑な社会の中で自分の位置を確保しなければならない。