5 闇の声


要約:ここでは闇の世界の全てをキリヤの内面世界として物語から逸脱する。するとキリヤの葛藤が明らかになるのだった。
こんなカットをとるなんてすごいな。しかもシカルプシーンが直前にあるからこそ余計際立ちを増している。ドツクゾーンではなく地上でもなく、音もなくどこでもない空中にキリヤが漂っている。それは宙吊りになったキリヤの心を正確に表しているし、視聴者にもキリヤの心がどこにあるかをきちんと伝えている。そういうシーンを更に驚かせたのが、突然空中に現れるポイズニーだ。そしてポイズニーが現れると、キリヤの顔には影ができる。ポイズニーはキリヤにとって自らの心の闇を象徴しているというわけだ。
(さて、この第5章だけこれ以降はポイズニーがキリヤの心の闇に住む、キリヤの別人格であるという架空の設定で話を進めます。ここではドツクゾーンはキリヤの心の中にしかない。だからドツクゾーンはキリヤの心の闇であり、そこに住むジャアクキング様はキリヤの闇の根源だ。ポイズニーはキリヤの心の奥にある闇からやって来る使者だ。)

キリヤの自我は夜の空をさまよっている。夜の空は地上から離れていて、音もなく何もない。彼の心は外の世界を象徴する地上から遠く離れている。しかし内面の奥底にある闇のからも離れている。キリヤの心は行き場を無くしどこへ行くともなく漂っている。空、そのさまようキリヤの自我の隣に突然現れるポイズニーは、キリヤの心の闇から彼を呼ぶ懐かしき仲間(もうひとりの自分)だ。
「何か用かい、姉さん」外の世界からやって来た(キリヤが心の扉を開けて招き入れた)ほのかに光を見るまで、闇の世界でずっと共に過ごしてきたポイズニーは自分自身の今までの居場所を背負っている。

「ここの奴らといてそんなに楽しい? あんたもしかして本気で仲良くなろうって思ってるんじゃ… フフフ」
やめてよ。そんなこと思ってないよ。
「どうかしら。ま、いいわ。あんたの気まぐれな学園生活も、明日で終わりだから」
どういうこと?
「楽しみにしてるがいいわ… ンフフ」

ポイズニーはふと自我の隣に現れてキリヤの自我に囁く。キリヤ、お前はいままであれだけ外の世界を見下していたじゃないか。自分を認めない外の世界を憎んでいたじゃないか。外の世界の人間達は、友達が大切だとか助け合わなければダメだとか、彼ら自身の価値を一度も疑うことなく土足でお前の心を踏みにじってきたのではないか。お前はそんな世界に復讐するために闇の世界にたどり着き、我々と戦おうと決めたのではないのか。それが何だ今のお前は。奴らのひとりに少し優しくされただけで、今まで共に生きてきた我々を見殺しにするのか?

それでもほのかのために一度開いた自らの心の扉を、キリヤは再び閉ざすことができない。だから闇の住人であるポイズニーはキリヤにそれ以上具体的な計画を話さずに闇に消えていった。世界の側で彼女たちに立ちはだかるプリキュア打倒に、戸惑い始めたキリヤのサポートはもう期待しないわけだ。キリヤは傷つきたくないからこそ今まで閉ざしていた心の扉を開いていた。だからほのかが聖子の側にいて自分の側にいなかったという事実が、開いている扉を通って無遠慮に彼の心をダイレクトに触り、キリヤは深く傷ついたのだ。だから聖子の手紙を破り捨てるまでに負のエネルギーが増大したし、怒鳴り込んだほのか(彼の心の扉を開けさせた本人であるに関わらず、いやだからこそ)をあの絶叫で拒絶することになったのだ。キリヤの心についてはひとまずここで筆を止め、ポイズニーに視点を移そう。