2 九条ひかりと小田島友華

とは言えそんな九条ひかりも小田島友華とのやり取りを見ると、印象が変わってくるように思える。何かを求めるように合宿所をうろつく小田島と、小田島に声をかけられた九条ひかりは、つぎのように会話を交わす。

小田島「私、去年まで中等部にいて科学部に所属していた」
ひかり「小田島友華先輩ですよね。なぎささんやほのかさんから聞いてました」
小田島「え、わたしのことを?」
ひかり「はい。なぎささんがとても素敵な先輩だって」
小田島「あらそう…」
ひかり「先輩と一緒に居るとファイトが湧くって」
小田島「はあ…」
ひかり「だから大好きだって言ってました」
小田島「だ、大好き…」

ここで九条ひかりは、小田島友華へなぎさの心を伝える役割を果たしている。言葉そのものと表情と話し方で。九条ひかりはこの時めったに無いほどの積極的な笑顔で小田島友華に話し掛けている。これは九条ひかりが小田島友華に好意を抱いているから、と読むこともできる。しかし、九条ひかりは小田島友華と初対面である。
また九条ひかりが小田島友華に対する自身の好意を表そうとしているのならば、九条ひかり自身の言葉で語るはずである。ところが九条ひかりは自身の言葉を全く語っていない。全て「なぎさがこう言っていた」という伝聞のみを語っている。ということは、ここでの九条ひかり九条ひかりではなく、なぎさの隠された心(小田島友華にとって)そのものであり、それ以上でも以下でもない。九条ひかりは、なぎさの心として、言葉と笑顔と話し振り全てを通じて小田島友華に美墨なぎさを刻み付ける道具となっていたのだ。
九条ひかり結びつける存在なのだということを以前に書いた気がするので、以前に書いたことにする。人と人との心を結びつける(奈緒美羽となぎさほのか、など)。クイーンの心とハーティエルを結びつける(クイーンの命としての役割)。石の力とプリキュアたちを結びつける(エクストリームルミナリオ)。
九条ひかりは自己主張が少ない。これは九条ひかりのこころがまだ自我を確立していないからなのか、それともそもそも九条ひかりには「闇を倒す」というような確固たる自我が形成されないのか、そのあたりはまだ良く分からない。もともとクイーンの命であり、クイーンの心は別にあるわけで、九条ひかりに心が確実に宿るということは無いのかもしれない…*1

*1:というのは最近ようやくエヴァンゲリオンを最後まで見ることができたのでそのへんに影響されてそう考えているのかもしれないです。6年前ぐらいに7話ぐらいまで見たのだけれど当時は全く面白くなくてそこでやめました。今回は非常に面白かった。「ふたりはプリキュア」を見て感じて考えて文を書くという訓練を続けてきたことで、絵の文法を読めるようになっていたからなのかな。シンジ君にシンクロする(正逆どちらにも)ことは無かったッス。自らの心の中に閉じてゆく時の緊張感はなんだかドストエフスキーっぽいかなと思ったりしました。