プリティー・エクササイズ(1)

わたし わたしって プリティー プリティー

まあこれは作詞家の個人的な感性なので別に取り立てても意味がない。プリティー・エクササイズというのはもちろん『Dual Vocal Wave!!』に入っている歌の題名なのだが、ここでは「女の子たちが『かわいい』ものへのあこがれを身体感覚に刻み込む修練(エクササイズ)」という意味に無理やり読み替えてこじつけしてみる。
で、そのプリティー・エクササイズについて考えていると、折り良くえみさんから長文コメントが届いた。例によって僕は思いつきで書き始めてあとは流れで書いているので失言というか突っ込みの入れやすい文章になっていました。突っ込みの入れやすい内容だったこともあり、そういう時には丁寧に書かなければと反省。

我が家の子供たちは1歳の終わりくらいからピンク&赤好きになりました。服は大体お姉ちゃんは自分で選んでます。母親の好みでは全然ありません。ピンクは汚れが目立ち染み抜きが大変なので、紺やデニム素材を私は勧めますが、ほとんどピンクを選びます。(えみさん, id:dokoiko:20041027のコメント欄より抜粋)

これは「子供のピンク好きは親の趣味」と書いた僕の文章へのコメント。僕はやっぱりそういう意味で書いていたので、自分の論考が甘かったと反省。親のピンク趣味が子供に影響するということではないのだろう。しかしキャラショー会場や普段の路上で見る限り、かなり多くの女の子たちが「なぜか」ピンクを選ぶようになり、かなり多くの男の子たちは「なぜか」ピンクを選ばないようになるという事実は存在する。ではその嗜好の差が生得的な反射であるかというと、人間の場合そうではない。必ずしもすべての人間文化が「女-暖色、男-寒色」というセットを持っているわけではない。日本に限ってもここまでピンク一色に女の子たちの嗜好が偏っているのが歴史的に続いているかというとそういうわけでもない。現にえみさんもピンクは苦手だと書いている。
ところが現状はピンクが氾濫しているわけで、しかもえみさんのお子さんは2歳になるころからピンク好きになっているわけだ。と同時にハイヒールやマニキュアにも興味を示すようになっている。マニキュアはみーちゃんもしているときがある。そして男の子たちがそうなるかといえば、まずほとんどそうならない。文化によっては男がおしゃれをして子育てをし、女が食料を調達したり力仕事をする文化もあるので、「女-おしゃれ、男-無骨」というセットも人間にとって生得的ではない。
歴史が浅いことと異文化の混合度から、文化の実験場となっているアメリカでは、60年代のヒッピー文化や70年代の男女平等ムーブメントを経て、90年代には専業主婦が復活して大規模な家庭回帰現象が起こった。女性像のトレンドは現在まで大きく揺れ動きつづけているわけで、なおかつえみさんとお子さんの例をまつまでもなく同時代での個人差も大きい。
これは人間の嗜好がまったく後天的であるということの証明にはならない。なんらかの先天的要因はあるのかもしれない。まああるのだろう。しかしその先天的要因は、生れ落ちた社会がその時点で保持している文化に影響される度合いが大きく、そこで後天的に与えられる影響に大きく左右されているだろうということだ。
金原が『"子"のつく名前の女の子は頭がいい』で示した事実は、親どうしの文化断層とパラレルに娘どうしの文化断層が現れるということであった。親が内面化している文化そのものを娘が受け継ぐということではなかった。そのあたりをごっちゃにして僕は書いており、そのへん頭の中でもそういう風に考えていたのだろう。金原に従い論を進めると、ピンク好きの娘を持つ親にはピンク好きではないにせよ何らかの文化的共通性を見出すことができるだろうということになるだろう(ただしここまでピンクが圧倒的になってしまえば、そこに親の文化的共通性を見出すことは不可能かもしれない。金原が注目した"子"のつく名前というのも、時代的に"子"のつく名前とつかない名前の比率が5:5に近かった時代の研究である。"子"のつく名前が絶滅状態の現在では、もうこの分類では有意な結果を導くことはできないかもしれない)。
マーケティング論には潜在的顧客の分類に「トレンドリーダー」というカテゴリがある。新しいものに常に敏感で、好きなものへの投資を惜しまず、しかも周囲への影響力が高い人々をそうカテゴライズするわけだ。PC分野で言うとメディアに出てくるような評論家やレビュアー、また5万円のビデオカードを買ったり10万円のCPUを買うような、いわゆる人柱といわれる人々がそれにあたる。そういう人たちは自分のホームページや2ちゃんねるのような媒体で人柱体験を他の人々に伝える。その口コミ情報がトレンドリーダーではない人々の購買行動に大きな影響を与え、結果的に企業や製品のマスイメージを決定することとなるわけだ。ということは製品をより多く販売したい企業にとっては、トレンドリーダーの支持をいかにとりつけるかが、その製品の評判や売れ行きを規定する重要な要因となることになる。
話をピンクに戻すと、自分の娘を生まれたときからピンクで取り囲むような親たちどこかにそれなりにいて、彼らがトレンドリーダーというわけだ。そういう環境で育った娘たちはまあ当然なじんでいるピンクを好きになると同時に、トレンドリーダーとしての行動文化も彼女たちの親から受け継いでいるのではないかと考えられる。金原の論を進めると、娘たちはピンク好きを受け継ぐわけではなく、親が内面化している行動原理のエッセンスを受け継ぐからだ。
つまり、トレンドリーダーとなるための行動力や影響力を親から受け継ぐ。するとその娘たちは、子供たちの間でのトレンドリーダー(まあ注目を引く人気者ということだよな)となる。トレンドリーダーの娘たちに影響されて、女の子たちはピンク好きになる…
というところまで書いて、えみさんのお子さんは2歳前からピンク好きになったことを思い出して僕は頭を抱えるわけだ。だいたい、2歳前じゃ保育園にも行ってないじゃないか。まあ

最近の子は私たちが子供の頃と比べると、皆異常におしゃれさんです。同じクラスの3、4歳幼女もみなおけしょうごっこなんかも大好きです。マニキュア塗ってる子も多いです。うちも隠しておいても2歳も4歳も勝手に出して自分で塗ってます。(えみさん, id:dokoiko:20041027のコメント欄より抜粋)

というのは母親を同性として理想像としている4歳と、お姉ちゃんになりたい2歳という構図で理解しようとすれば理解できるかもしれない。みさき公園オフではこのふたりがひりゅさんのプリティコミューンを奪い合ってたたきあいをしていたわけだが、妹ちゃんがほんとうにコミューンそれ自体に興味があったのかはあやしいと考えていて、お姉ちゃんが遊んでいるもので遊びたい(他人の芝生は青い)、お姉ちゃんと同じ事をしたいという気持ちのほうが大きかったりするのではないかと思っている。えみさんが妹ちゃんを連れ去ってアイスクリームを食べさせたらそれ以後はまったく興味を持たなかった(それどころか忘れてしまったんじゃないか)ところなどを考えると。
2歳前でピンクということに戻ると、

親の趣味は若干影響あるかもですが、皆子供が自分でやってる子が大半で、親が着せ替え人形にしているわけではありません。。(えみさん, id:dokoiko:20041027のコメント欄より抜粋)

これは僕とえみさんの意見がことなるわけではないと思う。人間は自己組織化をすることで安心するので、初期条件としてピンクのものになじませてしまえば、あとは子供が自分でピンクを集めだし、それが再び彼女のピンク欲求を強化するというプロセスを経て「自発的に」ピンクを選ぶようになるわけだ。だから問いの形として「なぜ初期条件としてブルーではなくピンクが選ばれてしまうのか」というところだけを取り出せばよいことになる。
ということでえみさん上の子が初期条件としてピンク好きになったきっかけとは何だろう。
(つづく)