4 第28話の細かい演出

坂道とけやきに関わる今放映回のメインテーマはちょっと後回しで、細かい演出をとりあげてみよう。

  • なぎさの夏休みぐったり具合。かえるポーズ(サービスカット?)、扇風機に向かい声を出す、メポミポポポの怒鳴り合いで最後に映る扇風機。夏休みのけだるい気分をとてもよく表現している。ほのかが適当になぎさをあしらっているのも、お互い夏の暑さに気が抜けていることとほのかの突っ込みが厳しくなっているというお互いの関係の進展を表現できていたと思う。光の園が12進法だというのは小さなお友だちには分からないなりに面白いシーンだろう。ついでに一見とても平和な日常を過ごしていることが分かる。
  • その後の実は不安を隠しているだけだったというシーンへの反転が見事だった。彼女たちはジャアクキング様を倒し、光のクイーンが彼女たちを伝説の戦士だと公式に認めた。しかし彼女たちの内面はメイン視聴者と同じような中学生の女の子であるということをちゃんと確認している。あの不安が前置き付きで語られていたとしたら、なんだか説明くさく聞こえるだろう。しかし夏休みのけだるさをさんざん描いた後に突然不安が芽をもたげ、それがだんだんとふたりの心を捉えていったことで、彼女たちが不安を感じつづけていて、それでもなおなんとか頑張ろうとしているというひたむきさも表現できていた。
  • 第12話で少女さなえがミップルを握り締めていたシーンの前後がようやく表現された。忘れた頃に思い出させるという手法はこれまでも何度かプリキュアで使われてきた。ここまで引っ張られると、前回のシーンはもうすでに記憶の一部となっている。それを思い出すということは僕にとって、何か本当に起きていた出来事を思い出すときの懐かしさに似た感じがした。
  • あかねさんの愚痴となぎさの受け売り問答。希望がテーマだということを中盤で一度念押しすることで、後の坂道シーン(無数のザケンナー場面)につなげている。またなぎさがさなえおばあちゃんの言葉を繰り返すことで、さなえおばあちゃんの存在がなぎさの中にちゃんと重さを持っていることがわかる。なぎさおばあちゃんは少しずつ存在感を増しつづけており、きっとどこかでとんでもない鍵を握って物語の本筋に登場するだろう。
  • 変質したザケンナーザケンナーたちも直接のご主人であるジャアクキング様の分身を守るとなれば、ドツクゾーン編のように単なるヤラレキャラではなくなるようだ。おまえら今まで手抜きしていたのかよ、と言いたくなるほどかっこよくなってしまった。
  • レギーネ覚醒開始シーンとだるまさんが転んだの対比。彼女がショーウインドウから向き直った瞬間には、メップルの「だるまさんが転んだメポ!」が声だけかぶせられていた。見事だ。
  • ショーウインドウのマネキンが消え、マネキンが着ていた衣装がゆっくりと落ちてゆく。マネキンもこのシーンより前に描かれており、そのあたり丁寧に演出されている。そして一列に並び、彼女のために車を止めるハットとコート姿のザケンナーたち。マイケル・ジャクソンのPVみたいなカッコ良さだな。彼女がザケンナーたちに守られるべき特別な存在であることがよくわかる。
  • 群がるザケンナーとの肉弾戦。スローモーションと通常速度とが交互に繰り返されていた。スローモーションのたびに戦闘シーンが引き締められ、直後の通常速度で一気に緊張感を解放するというメリハリの利いた映像だった。

(以下追加)

  • 母親役を拒否したほのか。ほのかはなぎさの苦しみの告白の中に自分への依頼心を感じ取り、それを全力で拒否した。直前の夏バテシーンを見ていて僕が気になったのがまさにその点だった。ほのかは完全になぎさの母親のように振舞っていた。というかなぎさのわがままに誘われる形でほのかは母親役を演じさせられていた。ほのかはそれをきっぱりと拒否したのだが、それはお互いが重荷を放り出したことになる。ふたりはそれぞれ異なる性格を持つけれどふたりがともに普通の中学生であるという描写だ。しかし物語の展開だけを考えると、ふたりが重荷を放り出してしまえば話は進まず、ドツボにはまるパターンだ。そこにさなえおばあちゃんが手を差し伸べる。ふたりにとって、そして物語にとってさなえおばあちゃんは絶妙のタイミングで救いをもたらしているわけだ。重要だぞさなえおばあちゃん。