ナージャ・アップルフィールド|永遠に失われた8時30分

いろいろと諸事情が重なり、13歳という年齢で日曜朝8時30分の少女アニメゴールデン枠に出演することとなった発情娘ナージャ・アップルフィールド(14)。小さなお友だちには難しすぎる役どころを一年間必死にこなして見せたものの、玩具販売の不振にひきずられ一年で元のドサまわりダンサーへと戻らざるるをえなかった。
それは一概に彼女の責任だとは言えない。ナージャが担当した『明日のナージャ』の前番組は、1年交代の日曜朝8時30分に4年間もの長きに渡り君臨した怪物番組『おジャ魔女どれみ』シリーズだったのだ。『どれみ』シリーズが放映終了から2年を過ぎた現在に至るもまだ地方公演にあまたのお誘いがかかり、さらには衛星放送で続編が作成されるという高い人気を現在でも保ちつづけ、同人界での人気もまったく衰える気配が無い。そんな超人気シリーズの後釜をこなすのは、たとえナージャでなくとも二の足を踏んだことだろう。持ち前の危ない橋を渡って壊す突撃精神を発揮してそんな大役に挑んだものの、やはりどれみという巨大な壁を乗り越えるまでには至らなかった。
しかしもとはと言えばヨーロッパじゅうをこつこつドサまわりに明け暮れていたダンデライオン一座の踊り子として、けなげにあまり日の当たらぬ世界で生き抜いてきた実は努力家のナージャ。降板後はダンデライオン一座と地味な地方興行に戻ったものの、主に2ちゃんねるのアニメ版プリキュアスレに居座り、なんとか(きわめて特殊ではあるがそれでも)社会との接点を保ちつづけていた。もう一度あの栄光の大舞台に立つ日を夢見ながら、屋台でコップ酒をあおりながら上司の愚痴をこぼすダメオヤジのごとき繰言を撒き散らしていた。
失意のナージャに代わり日曜朝8時30分の舞台に突然主役として抜擢された、これまでごく普通の日常を生きてきた美墨なぎさ雪城ほのかが『ふたりはプリキュア』が第2話から迷走を始めると、俄然みずからの再登板に希望の光を見出して元気を取り戻したナージャ。ところがなぎさとほのかはだんだんとペースをつかみ、『ふたりはプリキュア』も次第に盛り上がりを見せるようになると、ナージャは自らがもう二度とあの栄光の日曜朝8時30分に戻ることは無いのだということを思い知らされるのだった。

彼女が再び世間の脚光を浴びるには、人気タレントとの電撃入籍かヘアヌード写真集の発売ぐらいしか残されていないだろう。ナージャは果たして最後の決戦に打って出るのか。それとも地道に地方公演からやり直して正道を通って中央に戻ってくるのか。ナージャに直接コメントを取ろうとしたのだが残念ながらダンデライオン一座は次なる公演先を目指してヨーロッパのどこかを旅していて、ナージャの消息は分からなかった。道草している場合じゃないぞ、きっと。