雪城ほのか|穢れてゆく永遠のお嬢様

閑静な超高級住宅街に張り巡らされる壁の向こうに広がる広大な邸宅。両親は年に一度娘の誕生日だけ日本に帰国する超多忙なアート・ディレクター。そして本人は私立中学学年一の秀才にして毎月5通のラブレターを受け取りつづける美形の中学二年生。それが雪城ほのか(14)である。神が自らの娘を地上に遣わせたかのごとき才色兼備のお嬢様のままお年頃を迎える… 筈であった。しかしただひとつの問題は、おばあちゃまがまだ少女だった頃に手にした怪しげなコンパクト状の物体の片割れを美墨なぎさが手にしたということだった。


月夜に闘うキュアホワイト
ほのかのおばあちゃま、雪城さなえが瓦礫の中で手にしていた物体。それはドツクゾーンの侵略を逃れて光の園から虹の園へと逃げてきた希望の姫君ミップルだった。まあそれは運命のめぐり合わせだったのかもしれない。しかし運命は時に皮肉を運んでくる。ほのかにとっての運命の皮肉。それはほのかの手が届かないところから彼女を翻弄するのだった。ミップルとともに光の園を脱出した選ばれし勇者メップルとめぐり合ったのが、ミス庶民こと美墨なぎさだったのだ。

ミップルとメップルが持っているプリズムストーンを追い、ドツクゾーンから魔人たちが虹の園へと舞い降りた。彼らに対することができるのは唯一「光の園の伝説」である聖闘士プリキュアだ。メップルとミップルの二匹に選ばれた彼らのお世話役が二人そろった時、ようやくふたりはプリキュアへと変身することができる。だからほのかはなぎさとふたり息を合わせてプリキュアとなり、ドツクゾーンの魔人たちからプリズムストーンを、メップルとミップルを、そして虹の園を守らなければならない。もともと理念の世界に慣れ親しんできたほのかにとって、悪を憎んで大切なものを守るという命題は自分を投入するに十分魅力的なものだった。さらに今までの人間関係では出会うことの無かったミス庶民なぎさとの毎日は、ほのかにとってとても刺激的な体験だった。

そんななぎさとの日々が過ぎるうちに、ほのかにはだんだんとなぎさのしぐさが身についてしまうのだった。お嬢様というもの、常に清楚な微笑を絶やしてはいけない。ほのかはまさに正真正銘のゴールデンお嬢様人生をまっしぐらに突き進んでいたのだが、なぎさ百面相を眺めているうちにほのか10面相ぐらいには表情を崩すようになってしまった。さらに庶民の食べ物たこ焼きを学校帰りに路上でお召し上がりになるという野蛮な風習に手を染めてしまった。さすがに庶民の住居であるなぎさ宅3LDK(と推測される)マンションに出向くというところにまで病状は進行していないものの、それももはや秒読みでしかないのではないかと各方面から心配の声が上がっている。

そんな心配の声を雪城宅まで出かけてゆき、直接インタビューを試みてみた。しかし門をくぐろうとする我々に大きなゴールデン・リトリーバが立ちはだかり、門のはるか向こうに見える邸宅に住んでいるほのかに直接コメントを取ることはできなかった。