1 すべての始まり、すべての終わり

何も無い場所。それはすべてが始まる前のどこかであり、またすべてが終わる後のどこかでもある。神が世界を作る前のどこかであり、また神が死んだ後のどこかである。ビッグバン理論でのビッグバン以前のどこかであり、ビッグクランチ(もしくは熱の死)後のどこかである。自我領域の終わりであり、無意識領域の始まりでもある。闇と光が出会うところ。ふたつのものがひとつとなるところ。それは自他の区別なき世界である。すべてがある世界であり、なにもない世界である。
またこのふたりは、一人の人間の中に住むふたつの人格でもある。自我領域に住む人格が、世界とかかわりをもちつづけている九条ひかりである。無意識領域に住む人格が、闇の中で孤独に育ってきたあのお方である。
このふたつの人格については、村上春樹読者であれば『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の主人公である「私」と「僕」との関係を思い浮かべるだろう。