1 これまでの抑圧を取り戻すための増殖

百聞不如一見ということで、三部作で小田島がどのように動いたのかをチャート化してみた。


小田島−なぎさ関係図

無印第16話では、登場時の小田島はお迎えのロールスロイスの中でマドンナを拒否している。しかしなぎさ(を含む他者)に対してはマドンナとして振舞う。自分だけの世界では自分の素直な気持ち(マドンナ拒否)が表出してしまうということでマドンナ拒否である。しかし他者の前では相変わらずマドンナとしてしか振舞えない。しかもなぎさに対してはことさらマドンナとしての自分を誇示するように振舞う。これは小田島がなぎさを過剰に意識していることの裏返しである。なぜそうなのかといえば、小田島はなぎさをマドンナの対極として見なしており、自身がマドンナではないものに対してダブルバインド状態であるからだ。
小田島はなぎさには明確に対立するもののマドンナに対しては態度を決められずに迷っており、チャートのような位置になると思われる。
そこにポイズニーが登場し、小田島を幻術にかける。小田島は小田島としての意識をなくしてしまう。すると小田島は何人にも分身し、花いちもんめをしたり、他人のポップコーンを奪って手づかみで食べたりする。この状態では、小田島が自我の後ろに隠している欲望が前面に出てきていると考えてよいだろう。これはマドンナであるべしという規律によって、小田島の自我がこれまで押さえ込んできた欲望である。ポイズニーの幻術は、小田島がこれまで長年押さえ込んできた非マドンナ的な自己像を一気に解放した。だから小田島は増殖したのであり、これまでの抑圧を一気に回復すべく何人もの「ありえない自分」が登場することになったわけだ。
で、この増殖によって小田島が抱いてきた非マドンナ行動への欲求はかなり解放された。よって小田島にとっては、幻術の中で非マドンナ的行動を解放させたことで、日常でのマドンナ拒否エネルギーも後退することになった。ラストには心理的な平穏をとりあえず取り戻したのだった。しかしラストでの小田島は、落書きを思い出して笑うなぎさとほのかの前で、マドンナにはありえないたじろぎを見せるのだった。
それは「完璧なマドンナ」であったこれまでとはちょっと違う。ここでは、これまで外出中には完璧に抑えきっていた非マドンナ的行動が出てしまっている。ポイズニーの幻術で一度解放されてしまった非マドンナ的な欲求をコントロールできていないわけだ。もしくはコントロールの度合いを弱めていると考えることもできる。
無印第16話のラストについては、マドンナについて拒否反応が減ったこと、なぎさが象徴する非マドンナ的行動についてコントロールが減ったことの二つを考慮した。そんなわけで小田島としては平和を取り戻したということで、チャートの真ん中にラストを配置した。