1 シリーズレベルでの知らない

敵を知らない

彼女たちは闇の戦士たちの名前をいちいち知らないし、知ろうとしない。彼女たちが名前を口にしたのはキリヤ、イルクーボ…… だけか。敵が何人いるのかも知らないし、敵が何なのかということも知らなかった。もちろん彼女たちはドツクゾーンという闇の世界に君臨しているジャアクキング様が親玉であるということを知っている。しかしそれはメップルとミップルの口を通して語られたほとんどイメージの世界であり、メップルとミップルもこれ以上のことになると彼らにも分からないという始末である。

己を知らない

彼女たちは自分たちが何なのかも知らない。彼女たちはプリキュアになってしまったのだが、プリキュアが何なのかも良く分からない。光の園の伝説に伝わる勇者であるということはメポミポから聞いたが、その伝説はあらましも良く分からない。光の園もどうなっているのか良く分からない。これはドツクゾーンにも言えるのだが、光の園はどのような世界なのか分からない。
これら二つの世界とは異なり、映画版プリキュアに出てきた別の別世界である希望の園はだいたいのところが分かるような描写になっていた。その描写は論理的に言えばまあ理解できる描写だった。そしてなんだか子供のころの憧れについて大きくなってからそのからくりを知ってしまったような感じがした。なんだ、こんなもんだったのか…… と。

目的を知らない

なぎさとほのかはプリキュアとして、やってくる闇の住人たちと戦う。しかし彼女たちは、目の前の戦いがどこへ向かうのかを知らない。もしくは彼女たちがどこへ向かえば戦いが終るのかを知らない。解決をもたらしたのは今まで二度ともが偶然による。第一シリーズ(無印前半)では光の力を遠ざけるため、怨念化して常軌を逸したイルクーボがふたりをジャアクキング様の下へ連れて行ったことだった。第二シリーズ(無印後半)では7つの石の力をなぜか(おそらくジャアクキング様の力が及びにくいからだろう)虹の園の洋館で解放させようとしていた分身三人組を追いかけたプリキュアたちが、彼女たちにとっては偶然開いた闇への入り口をくぐることだった。
マックスハートに入っても、この目的の曖昧さは引き継がれている。大きな目的としてはクイーンを復活させることであり、そのためにはクイーンを構成する要素であるクイーンの命、心、12のハーティエルをそろえなければならない。これはなぎさとほのかにも分かっている。しかし12のハーティエルがどこにいるのかは分からない。近くにいるということはうすうす分かっている。しかし彼女たちはハーティエルたちを探すことはできない。ハーティエルが彼女たち(正しくはクイーンの命である九条ひかり)を見つけてくれるのを待つことしかできない。彼女たちができることは、それまで闇の戦士たちから九条ひかりシャイニールミナスを守ることであり、より局所的に言えば無印と同じようにやってくる敵を日々退けつづけることである。