2 ヒーローにさせるヒーロー

最終回を見終わって気が付いた。プリキュアは、ブラックとホワイトは、なぎさとほのかはヒーローじゃない。彼女たちはヒーローではなく、周囲の仲間たちをヒーローにするという意味でのヒーロー、すなわちメタヒーローなのだった。プリキュアのおかげでヒーローになった人たちを見てみよう。

  • ポルン

今回ジャアクキング様を倒したのはプリキュアたちが放ったレインボーストームだった。しかしレインボーストームはポルンの力で発動する。だから一度ジャアクキング様にはじかれたレインボーストームは、発動時のポルンの力がまだジャアクキング様に勝つまでにはいたっていなかったのだ。それからポルンは完全に覚醒した、とクイーンが宣言する。クイーンが宣言したのだから、物語上ポルンは一発目のレインボーストーム発動後に覚醒したと考えるべきだ。
ポルンの覚醒は今回第49話の最初から始まっていた。それを表現しているのが、レインボーブレス発動時の叫びが変化したことだ。
いつもならば「光の力を受け取るポポー!」であるが、今回は「プリキュラ、がんばるポポー!」だった。決り文句をここに来て変化させるということはそういうことで、マンネリを逆手にとってポルンの成長を立った一言で表現したのにはおどろいた。しかしここでの覚醒はポルンにとって、まだ不明瞭な感覚でしかない。彼が自分の覚醒を完了するのは、プリキュラが大好きだという気持ちを言葉にして自己諒解することと、クイーンによる覚醒の承認を得る必要があった。
彼は今日まで、守られるだけの存在だった。しかし今回、ポルンは初めて守る側の立場にたつことを選んだ。「ポルンはプリキュアがだいすきポポ。だから、ポルンにできることをおしえてほしいポポ」お前泣かせるじゃねーか。いつのまにそんなこと言うようになっていたんだ。小さなお友だちはみんなポルンになって、ポルンといっしょに頑張っただろう。

  • キリヤ

キリヤについてはいろんな論点があるので、かねてからの予告に従いそれらは後日書くことにする。それを予告とは言わないんだといわれればそのとおりだが。
キリヤは闇の魔人としてプリズムストーンを持っていた時点では、引きこもり少年だった。世界から閉じこもり、世界を否定し、闇の力だけを信じて世界を冷笑する引きこもり少年だった。そして石をほのかに渡すころになると、ほのかを通じて世界とつながり、世界への否定感情を無くしていった。同時に闇の力を恐れるようになった。つまりマイナスではなくなったものの、プラスにもなれないという凪の状態にとどまった。世界へ踏み出す勇気を持てなかった。
たとえ闇の存在であっても、否定的な感情しか持っていなかったとしても、なんらかの感情エネルギーがあれば人は生きていける。それが人を動かすエネルギーであることには変わらないからだ。石をほのかに渡した時点で、キリヤは世界を否定することで引き出していた生命のエネルギーを捨てた。とはいえ彼は世界を肯定することで引き出せる前向きなエネルギーを手に入れるまでにはいかなかった。だから彼は亡霊のような存在として、どこでもない場所に漂うしかなかった。
そのキリヤが今回のラストで成仏した。どうみてもあれは成仏だろう。彼は生きることを選んだ。他者のいない安全な闇の世界から完全に解き放たれ、他者がいて安全ではないが生命の肯定的なエネルギーにみちている世界に足を踏み出した。
キリヤを引きこもり少年だと考えれば、今回キリヤは閉じこもりつづけていた自分の部屋を出たわけだ。これは引きこもり少年からすれば革命的な出来事であり、部屋を出ることができたキリヤは間違いなくヒーローだろう。自分の部屋を出るということは、閉じこもっていない「健全な」他者にとってはごく当然のことかもしれない。
だから、キリヤは成仏したけれど、キリヤの成仏は誰も知らないところで行われたわけだ。彼が自分だけの革命を成し遂げたことは誰も知らない。それは彼だけにとっての革命だから、別に誰に見てもらう必要も無い。彼が自分で知っていればそれで十分な、彼だけの革命なのだから。

  • 番人

上記ふたりに比べれば、番人をヒーローに数えるのはアレかもしれない。しかし万事後ろ向きであった彼がポルンとともにプリキュアレインボーブレスをとどけたのは、それまでの彼と比べればヒーロー的な活躍をしたわけだ。

  • メポミポ

彼らは「選ばれし勇者」「希望の姫君」であった。だが実際は自分で闘うことができず、実力行使はプリキュアに頼るしかなかった。プリキュアジャアクキング様を倒したから、結果的に彼らは「選ばれし勇者」「希望の姫君」として光のそのの歴史に名を刻むことになった。プリキュアがいたからこそメポミポは光の園の伝説通り、光の園を救ったヒーローになることができた。

  • 柏田真由、ユリコ、谷口聖子、京子夏子、矢部千秋

彼女たちもそれぞれ自分自身にとってのヒーローになることができた。それはプリキュアとしてではなく、なぎさとほのかとしてではあるものの、ふたりが支えとなることでひーろーになることができた。
柏田はなぎさにあこがれて前向きな態度をとるようになった。ユリコはほのかの機転で科学発表会の功労者としてみんなに認められていることを知った。聖子はキリヤが頭を下げたことで失恋を乗り越えることができたのだが、キリヤが頭を下げようと決意したのは、ほのかの男子部殴りこみとその後の素直な謝罪があったからだ。
京子夏子はプリキュアを見て偽プリキュアになった。一時期子供たちのアイドルになって有頂天になっていたものの後悔して成長した。ように見えたがでもやっぱりまたもとの偽プリキュアに戻ってしまった。まあしかし、京子夏子は子供たちのアイドルとして、夢を与えるプチヒーローぐらいにはなった。のかな。
矢部千秋はスランプにはまったものの、なぎさほのかがヒントとなってスランプを脱出し、合唱コンクールの統率役を全うすることができた。
というように、なぎさとほのかは柏田真由登場の第4話から最終回のポルンにいたるまでずっと一貫して、周囲の誰かをヒーローにしつづけているというわけだ。ジャアクキング様打倒という最大のイベントまでもポルンをヒーローにしているのだから、彼女たちは根本的にメタヒーローであったと考えるのが妥当ではないかと考える。
なぎさとほのかがブラックとホワイトとなって、伝説のヒーローとして活躍し世界を救うのが「ふたりはプリキュア」の物語だ… という視点に立てば、この最終回はとても不満が大きくなるだろうと思う。「ヒーローじゃねーじゃん」と。しかし、そもそもふたりはメタヒーローなのだという視点に立てば、彼女たちはメタヒーローとして最後までしっかりと役割を果たしたと言える。

ひとまず本日はこのあたりで。まだまだネタはありますよ。