3 Aパート後半〜さて本題

 というのが「ふたりはプリキュア」の前フリなのでした。物語はメポミポを拾ってプリキュアとなったなぎさとほのかのふたりが主役なのだけれど、物語はなぎさを主軸にして描かれる。アバンタイトル(オープニングタイトル前をそう言うらしい)は今のところ初回が風景描写だったのを除いて全部なぎさの回想のみでほのかの回想は一度もない。本筋から外れた日常描写であるお家の出来事や登下校などのシーンはほとんどなぎさを描いている。だから今のところこの物語はなぎさの物語だ。作り手は視聴者になぎさの視点でこの物語を受け取るように仕向けている。

 この物語は、ことごとく異なるふたりが初めて異質な存在と出会っていく過程を描こうとしているように思える。異文化理解の物語と言ってもいいだろう。前回ながながと表にまとめてみたように、人間のいろいろな属性をことごとく二つに分け、二人の人間に割り振っている。とは言えくじを引くようにでたらめに分ければよいわけではなく、なぎさとほのかという二つの人格として纏め上げなければいけない。しかも小さいお友達に分かりやすくすることを考慮すれば、一方を明るく元気なやんちゃ娘という類型として形成し、他方をおしとやかでまじめな深窓の令嬢という類型に落とし込むというのがおそらく最もありうる回答になる。それが明るく元気なやんちゃ娘のなぎさであり、おしとやかでまじめな深窓の令嬢ほのかとなる。

 そこまで造形すれば小さいお友達がどちらを自分の分身として受け入れるかはおそらく明白で、だからこそこの物語はなぎさの物語として語られる以外にぶっちゃけありえない。視聴者の分身はなぎさだと方向づければ、友達に囲まれているのはなぎさであり、一家四人でマンションに住むのはなぎさであり、ぬいぐるみが大好きなのはなぎさであり、突然プリキュアにされてしまいおそろしい敵に襲われることを拒否するのはなぎさであり、流行り言葉に敏感なのはなぎさであり、イケメンにどきどきするのはなぎさであり、チョコ大好きなのはなぎさであり、おしゃれするのはなぎさであり、感情豊かで行動的でちょっと間が抜けていて勉強が苦手で男子に好意を寄せられないのはなぎさなのだ。そしてそういうなぎさにとって一番遠い存在として、いわばなぎさの影として造形されなければならないのがほのかなのだ。

 なぎさにとってほのかとは究極の他者である。と同時になぎさにとってほのかは自分自身の影であり、もうひとりの自分でもある。自分と決定的に違う存在が実はもうひとりの自分であるというのは人類史で言えば神話の類型としてさまざまな民族の神話に語り継がれているし、近代ではユング派心理学の中核的モチーフである。また唐突に村上春樹を持ち出せば、村上小説の主人公「僕」に対応する「鼠」「キスギ」「永沢さん」「五反田君」「私」「綿谷ノボル」はそれぞれがいろいろな意味で「僕」とは対照をなす人物であり、しかし同時にもうひとりの「僕」である。村上春樹にはもうひとつ、「僕」を巡る女性たちの間でこの関係が成立するがそれはそれ。

 「ふたりはプリキュア」についてはたくさんの賛辞と共にたくさんの批判が語られている。まあ前回あれだけ賛辞を贈った僕から見ても批判… とまではいかなくてもちょっとそれはツメが甘いだろと思うところは結構ある。そういう批判のひとつに「登場人物の性格描写が足りない」というものがあった。批判としてはそもそも東映アニメの主力が「おじゃ魔女どれみナイショ」に振り向けられることが規定路線だったからプリキュアははじめからやる気が無いのだとか、だから設定がいや全てにおいて何もかもがいいかげんなのだとか、そんな体制だから出てきたのが苦し紛れのセーラームーン&どれみの焼き直しではないかとか、ふたりという言葉に製作者が引きずられてしまいその他の登場人物はすべてふたりの関係描写のパーツにしかなっていないとか、そもそも「ふたりはプリキュア」であるはずが「なぎさともうひとりはプリキュア」になってしまっているじゃないかというように続く。

 僕はアニメの人ではないのでその辺の事情には全く疎い。しかしまあプリキュア放映だけを見ていても、その辺の事情はやっぱりそんな感じなのかもしれないなあと思う。とは言えきちんと完成させようとするとプリキュアセーラームーンやどれみに比べてかなり難しい原理的課題を背負っているように感じる。作品として完成させる難しさを知りつつ、製作者たちはセーラームーンやどれみの世界では描くことが出来ない何かを描こうとしてプリキュアにたどり着いたのではないかと思う。まあこれは一視聴者のたわごとなので物語が僕の言うように進むとは思わないし、製作者の意図が僕が言うようなものだとも思わない。でもまあ先に進もう。

アイキャッチ
 CM前とCM後になんかタイトルがついてちょこっと出てくるものはそういうものらしい。では宣伝。こんごとも よろしく…