3 手の届くところになぎさほのか

前回MH第15話は、なぎさとほのかがそれぞれの性格を最大限に発揮して、奈緒と美羽が抱くスーパーヒーロー像を体現してみせたという話だった。前回はとにかくなぎさもほのかも非の打ち所のない完璧なヒーローとして描かれている。それは「ふたりはプリキュア」での世界観から大きく外れている。なぎさはスポーツ万能だが、おっちょこちょいでボケかましでとにかくいろいろと欠点(と言われる性質)であるわけだ。ほのかはみんなに完璧と思われるような性質であるが、中学生離れしているところが空回りになったり、完璧ぶりが災いしてとっつきにくいと思われたり、理に火がつくと周囲が見えなくなったりという面を見せる。
そのように長所と短所を持つ、それでもふつうの女の子が「光の園の伝説の戦士」プリキュアなどというものに変身することになり、キュアブラックキュアホワイトに変身すると、いかつい魔人たちを毎回撃退し、さらには闇の支配者などというとんでもない何かさえ消滅させてしまう真のヒーローとして活躍を続ける。というのが「ふたりはプリキュア」である。
中学生としての不完全さは、視聴者にとって等身大の親近感を持つという意味でも大切な要素である。さらにそのように不完全な中学生の女の子ふたりがプリキュアに変身すると、どんなに強い敵にでも打ち勝ってしまうという逆転の物語がそこに生まれているのだ。
それは別にプリキュアだからというわけではなく、時代劇では遠山の金さんや水戸黄門必殺シリーズ暴れん坊将軍など多くの長寿番組の基本的なフォーマットとして(いやもっともっと昔から)伝承されている作劇法だ。分かる人は分かるがトミーとマツもそうだな。最近ではアレですね、ごくせん。普段から強いものが勝つというのはあたりまえで、普通の人や弱いものが強いものに打ち勝つところにカタルシスはあるわけだ(というか、結局やっぱり強いものは強いということだが、強いものがその力を隠すなどして、強さにモノを言わせる悪を主人公が弱きものの立場で裁く、というところが物語の真実味を担保しているわけだ)。
ということで、なぎさとほのかが「選ばれし完璧な存在」になってしまうことは、日常シーンで視聴者が感じる親密さを奪うのみならず、非日常シーンでのカタルシスすら奪ってしまうことになる。「ふたりはプリキュア」における日常と非日常の両面において、面白さの基本線をとことん変更してしまう重大事へとつながってしまうのだ。
だいたい第15話があのようなスーパーヒーロー物語として楽しめるのも、基本的になぎさとほのかが長所と短所を持った身近な存在として十分視聴者になじんでいるからこそ「私たちのなぎさほのか」がほんとうのスーパーヒーローとして活躍してよかった! と、素直に感動することができたからではないかと思う。のび太が映画に出る時だけヒーローになるのを受け入れることができるように。
のび太がずっと映画版ののび太だったら、それは出木杉君だ。「ドラえもん」が出木杉君とドラえもんとのお話だったら、絶対ウケてなかっただろう。そもそもそんなドラえもんなどありえない。出木杉君にドラえもんは必要ないし。お蝶婦人が主人公のエースをねらえ!は面白いか? 花形満が主人公の阪神の星は面白いか?(すまん、面白いかも…)で、なぎさがスポーツばりばりの完璧な運動家で、ほのかが完璧な知性を備えたお嬢様だったら、そんなお話は見てねーよ。
そういうところは当然、アニメ一筋57年の東映アニメーションが分かっていないわけが無い。ただここまで強烈に揺り返すかというところはあるが、ともかくMH第15話でひかりのために超人の域まで達してしまったなぎさとほのかをそこから「ともかく普通の人」にまで引き摺り下ろしたのだった。

うんちく女王、もともとの見え方:ほのか

今回MH第16話では、主になぎさが「努力しない、占いに逃げる、最後まで反省しない」という面を全開にしたことにより、なぎさだけが元通りの純真スポーツバカっぽく見えた。しかしhttp://hikaruminosekai.ameblo.jp/entry-255e79331a92446e14bf6570c169acc7.htmlにてヒカルミの世界さんも「ほのかのウンチクも滑稽に聞こえるような、ふたりの個性重視の脚本でした」と指摘しているように、ほのかにとっても無印登場時点のほのかに戻るような描写となっていた。
とにかく勉強が好き。さらにそんなほのかに必死で食らいついてくる努力好きなひかりに対しては、ほのかは懇切丁寧に自分の勉強時間を割いてまで教えて教えて教える。しかし、そもそも非科学的極まりなく、口に出すのも汚らわしい占いを持ち出して、努力を怠る口実とするなぎさには、愛想をつかして言葉もかけなくなってゆく。ここでなぎさに対しては、ダメなヤツには言葉もかけないという理の人としての性質が悪いほうに出ているわけだ。
また、イエローなぎさと志穂莉奈が占いの効果を喜んでいる時にでてきたほのかは、占いのうんちくを披露する。しかしそのうんちくはほのかが「うんちく女王」と呼ばれることになる、意味のない知識のひけらかしとしてのうんちくそのものだった。
そういう文脈があって、月夜遅くまで勉強するほのかをインテリジェンが見つける場面になるのだった。この文脈でなければ、努力を怠らないほのかがもっともっと輝いて見えるところだ。ということで、ほのかはとっつきにくい秀才というもともとの地点に戻ったのだった。

純真スポーツバカ:なぎさ

なぎさについては、放映を見てりゃ分かる。ただし最初のシーンでひかりに友達ができたことを喜んだところが、純真がつくところだ。